お店づくり

デパートでバイト②ムードメーカー

今回配属された売場はバレンタインの催事場で、ショップが4店集合したブースの共同レジでした。主に4店舗分のかんたんな接客をし、ひたすらお会計を受けたり、呼び込みをしたりするのが仕事内容です。

このブース、毎週ショップが変わるのが売りポイントのひとつです。

バレンタインの催事って、複数回来場されるお客さまが多いんですよね。3週間と長い期間の催事ということもありますが、前半は自分へのご褒美チョコを、後半はプレゼント用のチョコ(と自分のご褒美の追加)を買いに来るからです。実際のところ「あれ?またこの方見かけたな!」とリピーターに気付く場面も多くありました。

基本的によそのショップは3週間変わらないので、わたしがいる週替わりのブースは、リピーター層に向けた目新しさの演出というわけです。

それで、最初の週のショップさんの中に、その「ムードメーカー」がいました。

ムードメーカーさん(橋本さんとしておきます)が来ると、一気にブース内の雰囲気が変わります。働いてる人たちに活気が出て、お客さんが増え、楽しい忙しさがもたらされるのです。橋本さん、すごくないですか。

こういう人がお店にひとりいるとうまく回っていくんだろうなあと感心したので、自分なりに橋本さんのムードメーカーたる要素を書き出していきます。

あいさつが元気

まずこれです。あいさつ。橋本さんは自分のお店のランチタイムを回してから催事場に来るのですが、ひと仕事終えた疲れは一切見せずに「おはようございます!!お疲れです!!!」と元気に入ってきます。みんなその存在に気が付くし、みんなとそれぞれあいさつをするので、これだけで一段階空気が上がりますね。

とにかく人懐っこさが半端ない

橋本さんはあいさつの後に何らかの一言を添えてくるのですが、バリエーションが豊富です。「今日どんな感じですか〜?」という商況をまじめに聞いてくることもあれば、「お待たせしました〜橋本が来ましたよ!みんな寂しかったでしょ〜!」というような明らかツッコミ待ちの発言まで、いろんな引き出しをお持ちでした。

みんなと必ずしゃべる

最初にも書いたように、このブースは4ショップ合同で組まれています。そのため、ブースの中には各ショップのスタッフさんと、デパートが雇用したレジ部隊とがいるわけです。

橋本さんはもう誰がどうとか関係なく、とりあえず話してました。忙しくても、タイミングがなかなか合わなくても、毎日一言は話しました。他のみんなもそうでした。話の引き出しが多すぎる…

そうするとどうなるかというと、橋本さんをハブにして輪がつくられていくんですよね。ショップの垣根とか簡単に超えちゃう。不思議な一体感が生まれてきました。

ここで普通やりがちなのが「みんな=話しやすい人だけ」になってしまって、全然話さない人を作ってしまうことです。そうするとどうしても雰囲気に偏りというか、ヨレが出るんですよね。普段はそれでも回せるんですが、何事か問題が発生したときにチームが崩れます。たった1週間のメンバーなのだから、話したい人と話すだけでもよかったはずなのに、そうしなかった橋本さん。きっと普段からそういう習慣なんでしょうね。コミュ力おばけ…!

専門性が高く勉強熱心

橋本さんはシェフですが、他のショップのシェフと話している様子が聞こえてくると「ああこの人はちゃんとシェフなんだなあ」と思わせられました(失礼)。ものすごく専門的な話をするし、飲食の話題のお店・最新のお店にはめちゃくちゃ詳しいし。催事場で気になったチョコレートも一通り食べたようで感想を語らっていました。

橋本さんにとってはシェフ同士の会話も勉強の一部なんだと思われます。ガンガン話して情報収拾してましたし、自分からもたくさん情報を話していた結果、いつの間にか、シェフたちがすごく仲良くなっていました。

シェフとか職人さんとかって専門職なので、言葉を選ばずに言うととっつきにくい人とかも結構います。そこを短時間でうまくつなげようと思うと人柄だけではどうにもならなかったりします。専門知識と熱心な姿勢があるからこそ(もしかしたら今回のシェフ同士相性がよかったのかもしれませんが)社交辞令とか抜きで話が盛り上がっていたんだろうなと感じました。

やたら褒めてくる

良いと思ったらすぐ口に出てしまうようでした。お世辞っぽさが全くなく、嫌味っぽくもなく、単純に褒めてきます。言葉の使い方がお上手。一緒に働いている身としては「褒めてもらえる=自分の動きをちゃんと見てくれている」という肯定感につながるし、それが仕事での自分の存在価値になったりやりがいになったりするよなあと。

褒めることって、あなどれないなとあらためて思いました。

よそのショップのこともガンガン助ける

自分のショップも混みはじめているのに、他のショップの方が混んでて手が回っていないとみると、率先して助けに行っていました。

これって本当にすごいことです。というのも、催事場に出店している以上は「売上を取らなくてはならない!!!」というプレッシャーがかかるわけです(デパート側からも、自社としても)。であれば、自分のところを専念するほかないと考えるのが普通だと思いますが…

橋本さんがそうやって隣のショップを助けることで、お客さんをしっかり捕まえることができます。さらにブース全体にお客さんが入ってくるようになります。接客が盛り上がる=活気が出る=人が人を呼ぶ、からです。

結果として、どのショップも混みました。つまり自分のところの売上にも大いにつながったわけです。

この姿勢はなかなかできるものじゃないなと思いましたが、結局のところ、自分だけ勝ちにいくのではなくてみんなで勝とう!という気持ちが、こういう催事での客商売では功を奏するんだなあと実感しました。

※ちなみに橋本さんは自分のショップの商品が完売した日、「俺らはファミリーですから!先に帰ったりしませんよ!」と言って、ピークタイムが終わるまで残ってました。自分の商品ないのに。

橋本さんが、これらをどこまで意識的にやっているのかはわかりません。もしかしたら無意識かもしれません。でも、こういう振る舞いをお店のリーダーないしサブリーダー的なポジションの人ができると、組織ってすごくうまく回るんだろうなと思いました。うまく、楽しくやっていけるなと。

ということで、橋本さんはムードメーカーのお見本のような人でした。

自分がそうなりたいのか、それともこういう人と一緒に働きたいのか。それはまだよくわかりませんが、「橋本さん的ムードメーカーの必要性」はしっかり頭に入れておこうと思いました。